10.ダイビング中のトラブル対処法
陸上で起きたトラブルなら、大声で周囲の人に知らせたり、救急車を要請するなど、さまざまな対処ができます。しかし、スキューバダイビング中のトラブルではそうはいきません。バディと一緒に潜ることは原則ですが、お互いに海の世界に夢中になっているうちに離れてしまったり、バディも一緒にトラブルに巻き込まれるという最悪の事態も起こりかねません。ダイビングをするときは常に安全を確保するとともに、非常事態が起こった時の対処法を、日頃から身につけておくことが必要なのです。ダイビングでは、ちょっとしたトラブルが大きな事故になってしまったケースでは、パニックに陥って冷静に対処ができなかった場合がとても多く見られます。できる限り落ち着いて、日頃身につけた対処法を実践することが、何よりの対策です。そして海の中で頼れるのは自分だけという心構えを持つようにしましょう。
 
タンクの残圧が少ない
水中の呼吸は、空気タンクが頼り。これがなくては、人間は呼吸できません。ですから、常にタンクの残圧には注意が必要です。それでも空気切れになってしまった場合は、一緒にダイビングをしているバディに合図をして、オクトパスを利用させてもらい、正しい方法ですみやかにエキジットします。オクトパスは空気切れになった時にバディに空気を分けたり、自分のレギュレータが壊れた場合に使います。オクトパスをつけていなかったり、バディが近くにいない場合は、さらに事態は深刻です。この場合も慌てず落ち着き、なるべく速く水面に浮くことが必要です。ただし、あわてて急激に浮上すると減圧症になる恐れがあるので、注意。水面を見上げるようにして気道を開き、大きな声を出して息を吐きながら、浮上します。水深が深いほど、浮上による減圧症が心配されますが、何よりもまず水面に出て呼吸を確保すること。落ち着いて可能な限り理想の速度で浮上します。このようなことのないように、常に空気タンクの残圧には留意し、オクトパスも装着しておきましょう。
 
タンクが外れてしまった
タンクの重さでベルトがゆるみ、タンクがはずれたり抜け落ちたりすることがあります。装着前にベルトを濡らすなどである程度は防御できますが、実際にはずれてしまったら…。まず浮力調節器のベスト、BCDのエアーを抜き、ショルダーベルト、ウエストベルトなどバックル類をはずし、BCDを脱ぎます。そしてタンクを自分の前に回し、BCDにきちんと収めます。これはちょっと力とコツのいる作業なので、ダイビングを始めたらぜひ練習しておくといいでしょう。タンクがきちんと収まったことを確認したら、肩の部分をしっかり持ち、再びBCDを装着します。ゲージやオクトバスなどが絡んでいないかどうかを確かめ、最後にベルトやバックルを締めます。
 
マスクに異常が発生した
マスクが曇ると周囲がよく見渡せなくなり、精神的にも冷静さを欠いてしまいます。海に潜る前に曇り止めを付けておく習慣をつけたいものです。それでもダイビング中に曇ってしまったらまずマスクの上の方から少しだけ海水を入れ、レンズの部分を水でゆすぐような気持ちで頭を動かします。これでも曇っているようだったら、海藻でレンズを拭いてみましょう。マスクのトラブルで最も多いのは、他のダイバーの足があたるなどしてマスクがずれ、水が入ってしまうこと。この場合は、マスククリアをします。マスククリアはスキューバダイビングの講習で必ず習いますが、まず落ち着いてゆっくりと息を鼻から吐き出しながら、マスクの中の水を出します。もしマスクがはずれてしまったら、鼻は使わず口で呼吸しながら、マスクがどこかに行ってしまわないようにストラップを手に引っかけ手から、マスクを元通りに顔に装着します。すぐにストラップを頭の後ろにかけ、マスクを手で軽く押さえて、息を鼻から吐き出しながら、水面方向を見上げます。
 
●現在地がわからない
エントリーした後、潜降したら、まず水中コンパスで自分のいる位置を確認し、陸の方向などもチェックしておきたいものです。それでも、潮に流されたりして、自分が今いる場所がわからなくなってしまうことがあります。 この場合は、まず水中コンパスで確認してみること。それでもはっきりしなかったら、すぐにバディに合図し、一緒に水面に浮上し、位置確認をしましょう。この場合もあわてずに、通常のスピードで途中休息を入れて浮上することです。パニック状態になって急に水面に上がると、減圧症になってしまうことがあります。
 
何かに引っ掛かってしまった
海の中は、何が漂っているか分かりません。 何かにからまってパニック状態になることもあります。このようなとき、いちばん怖いのは、慌てたあまりにもがいたり動いたりして、よけいに絡まってしまうことです。まず静止し、何がからまったのか調べてみます。そして丁寧に外します。もし自分で外せないようなら、無理をせず、すぐにバディに合図をして、外してもらいましょう。それでも外せないようなら、BCDを外し、絡んだものをきちんと取ってから、再度装着します。どうしても外せない場合は、ダイビングナイフで絡んだものを切りますが、これは最終手段です。ナイフで切る場合も、くれぐれも扱いに注意して、ケガをしたり、器材のホース類に傷をつけないように気をつけましょう。
 
耳のスクィーズ
鼓膜の外部に、水によって急に強い圧力がかかることで起こる症状。外側が水圧で押されたために、耳の鼓膜の内側が内部に引き込まれます。これは高い山に登ったときなどや、トンネル内でも起こる症状です。最初は違和感がある程度ですが、さらに深く潜ると痛みを感じるようになり、鼓膜が破れてしまうこともあります。これを防ぐのが、「耳抜き」というダイビングの初歩で習うものです。耳に違和感を感じたら、すぐに鼻をつまむなどして息が通らないようにして、鼻に向かって息を吹き込みます。小さな音が鳴って耳の違和感がなくなれば、耳抜きが正しく行われたということです。違和感がなくなるまで行い、それからさらに深く潜りましょう。
 
減圧症(潜水症)
海の中では常に水圧を受けます。そのために、ダイビング中の呼吸で吸うタンクの中の空気は、陸上の空気より高圧のものです。そして、水深が深くなるほど水圧も高くなるので、自然に空気の消費量が増え、たくさんタンク内の高圧の空気を吸います。それでもダイビングをして身体がトラブルを起こさずにすんでいるのは、水面に浮上する際に、ゆっくりと時間をかけ、途中で休憩などを加えながら、肺中の空気の圧力を調整するからです。しかし、何らかの原因で急激に浮上した場合など、圧力の調整が間に合わず、多すぎる窒素が気泡となって発生し、身体の組織に影響を与えたり、破壊したりします。とても疲れてしまったり、関節が痛んだり、皮膚がかゆくなったり、ひどい場合は肺が破裂するなど生命に危機を及ぼします。減圧症にかかった時は、すぐに専門の医療機関で再圧器に入り、再度、人工的に圧力を加えて時間をかけて窒素を排出します。減圧症は浮上時に起こるので、予防するためには潜水の時間と深さに応じて浮上することが大切です。ダイビングをする時は必ず、減圧表に基づいた潜水計画をきちんと立てて、しっかり守りましょう。
 
窒素酔い
普通の状態では、窒素は血液中にはさほど溶解しないものです。 ところが、気圧が高くなると、窒素が血液中に溶解し、アルコールを飲んで酔った時のような症状が起こります。ダイビングで20〜30mより深く潜水すると、この窒素の溶解が始まります。大量に溶解した窒素は麻酔作用を起こす性質があり、酒酔いのような症状が表れます。これが窒素酔いです。窒素酔いは体質や体調により差がありますが、自覚がないままに進んでいくので要注意。ダイビング中に窒素酔いを起こしたなと思ったら、すぐに浅い水深に移動して、それでもいつもと違うようならすぐに水から出ましょう。このようなときは医師の診断を受けることも必要です。